「気候危機を報道する必要がない世の中になればいい」 FRaU編集部の3人に聞いた、読者との「対話」の作りかた【YOU ARE THE HOPE #5 後編】メディア逆取材シリーズ

嬉しいニュースや、学びの多い記事、番組に出会った時。
「どんな方がこの記事を書いてくれたんだろう?」
「どんな想いでこの出来事を伝えようとしているんだろう?」
そんな風に感じたことはありませんか?
メディアへの逆インタビュー企画「YOU ARE THE HOPE」では、気候変動やその他の社会課題に関しての報道を続けてくださるメディア/ジャーナリストの方へ、インタビューを行っていきます。私たち視聴者/読者へ希望を届けてくださる、その方ご自身がHOPE!という感謝をこめて立ち上げた企画です!
メディアを目指したきっかけ、報道にかける思いや、達成したい将来像は様々です。
「気候変動」という難しいテーマに立ち向かう、「メディア」内部を深掘りしていきます🔍
【YOU ARE THE HOPE #5 後編】講談社FRaU 編集部 関龍彦さん、園田徳一郎さん、新町真弓さんインタビュー
SDGsをはじめとした、サステナビリティについて発信を続けられる講談社「FRaU」へのインタビュー、後編です!
「指導」ではなく、読者と共に学んでいく。そんな「対話」の場を創り続けるFRaU編集部の3人に、気候変動報道への想いを聞きました。
8、SDGsを発信し続けてこられる中で、社内や世間の反応は変わってきましたか?
関さん)
最近ようやく、FRaUのSDGsへの取り組みを認知いただけている気がして。「サステナブル、SDGsと言えばFRaUだよね」と思ってもらえてる感じはします。
新町さん)
SDGsに関心のある読者を対象にした企画を、社外から提案いただくことも多いです。
子どもたちにサステナブルな地球を実現するアイディアについて考えてもらう「FRaU SDGs eduこども プレゼン・コンテスト」という企画もやっているんですが、そこでは、いかにサステナブルについて学んでる子が多いかを感じます。発表の内容を聞いていると希望の光も感じるし、「やってくれてありがとう」「絶対続けてね」というお声もいただきます。そういった応援の言葉や企画の提案をいただけることは、FRaUがSDGsを発信していることを知ってくださっているからこそだと思います。
9、FRaUさんは、パートナー企業さんとの関係性を大切にされている印象があります。広告を通して、企業の取り組みを読者へ伝えるこだわりを教えていただけますか?
「本誌以上に力を入れて作っているかもしれない」という、タイアップページ
園田さん)
企業と接しないで生きてる人は、世の中にいないわけじゃないですか。そこがSDGsに取り組んでいるのに、それを伝えないっていうのはむしろおかしい。「広告を肯定している」ことが、FRaUの考え方のひとつでもあると思います。
関さん)
あとは、FRaUのパートナー企業さんをお招きする「FRaU共創カンファレンス」を、年1回開催しています。例えばA社とB社とC社がパートナー企業だとして、誌面では順番に並んでいても、実際に会ったことはなかったりする。志を同じく、近しくする人たちだから、その人たちをつなぎたいっていう気持ちもあるんですよね。FRaUに広告を出したことによって他の企業さんと繋がるっていうのも、「お返し」したいポイントです。
園田さん)
それができていくことは僕らとしても嬉しいことですよね。FRaUに集まってくださったみなさんの銀河系ができて、周りを変えていけたら1番いいなと思います。そのためにはタイアップも、「広告」だからこそ、他のページと同じクオリティで作っています。
関さん)
SDGsは「みんなでやるもの」だと思うんですよね。国も企業も、個人も団体も。
FRaUの構成として、まず「世界はこうなった」って記事があって、「日本もやります」、それから「企業はこうしてる」っていう紹介記事がある。広告ページの次では「個人でできること」を紹介したり。SDGs号1号の最後に載せた「自分にできる100のこと」のページがまさにそれですね。ちょっと遠いところから、だんだん自分に身近なところへ戻ってくる、みたいなつもりでやっています。
10、気候変動を発信するやりがい、モチベーションは?
FRaUweb 編集長 新町真弓さん
新町さん)
「SDGsって、このままじゃやばくね?」と知らせていることになるので、そういう意味では、気持ちが沈むこともあります。でも「これやばいっすよ!!」って言うことは、メディアとして普通のことなんだと思うんです。むしろ、言わないことの方がストレスで(笑)だけど、興味を持って読んでいただくのは簡単ではなくて。歯を食いしばってやってます。あとは、一緒に頑張る仲間に会えることでも希望を感じますよね。それがやりがいのひとつかな。
関さん)
決して楽しいことを伝えているわけではないですよね。本当は、こういうことを伝える必要がない世の中であってほしいし、そうやって変わればいい。「やりがい」と言えるかは分かりませんが、問題が逼迫してることがわかってるからこそ、伝える使命感みたいなものはあります。ちゃんと伝えなきゃ、自分事にどうやったら感じてくれるのか、そういうことを悩むっていう感じなのかな。気候危機を気にかけている人がもし増えてるんだとすれば、やった甲斐があったなと思います。
園田さん)
僕も実はあんまり「やりがい」と感じたことはなくて。今目の前に「FRaU」っていうツールがあって、伝えなきゃいけないことがあったら、それは伝えて当然なんじゃないかなと思っています。今2人が言ったように「やるべきことをやっている」のが、結果的にやりがいになるのかもしれないけど。ただ、「やったあ、伝えられた」と思ってはいないです(笑)まだまだ足りないなと思うこともいっぱいありますね。
11、SDGsのゴールである2030年に向けて、今後の気候変動報道の展望を聞かせてください。
FRaU ブランドマネジャー 園田徳一郎さん
園田さん)
今僕らが目の前に感じている、特に「SDGs」「気候危機」っていう課題に関して言うと、2030年にはFRaUが必要なくなるのが理想だと思ってます。
新町さん)
FRaUでSDGsを報じる必要がなくなるということですよね。
園田さん)
そう。もっというと「解決してる」っていうのが理想です。月並みな言い方だけど、課題なんてないのが一番理想。
新町さん)
私も、目の前のことをずっと地道にやっていくしかないな、と思ってます。5年後とかっていうよりも、もう「今」。気候危機のテーマでも「これやばくない?」だけじゃなくて、ちょっと元気になるもの、たとえば素敵なアクションや人のストーリーなどを伝えていきたいです。
関さん)
SDGsのゴールは2030年だけど、これから先も、何らかそういうことは発信していきたいですね。ライフスタイルマガジンとして、その時代その時代で、提案したいライフスタイルの発信を続けていくということは変わらないかな。
12、これから気候変動に関する報道に踏み出すメディア関係者へのメッセージをお願いします。
関さん)
フランスの天気予報が話題になってますよね。元々有名な番組の中の天気予報で、キャスターが天気と気候危機の関連を、視聴者からの質問も交えて発信するようにしたところ、視聴率がむしろ上がったっていうんですよね。それだけ、そこまで関心が高くなった。残念ながら、この問題がこれからますますシビアになっていくことは間違いないと思います。どんなメディアであれ、もっと自信を持って、各メディアの特性を生かして、気候変動の発信を増やしていくべきだと思っています。この先、絶対みんなの関心ごとになるはずだから。
園田さん)
メディアの皆さんに対しては「もっともっと一緒に勉強していきませんか?」と伝えたいです。FRaUのスタッフもそれなりに詳しくなってはいるけれども、僕らも含めてメディア全体が、気候危機の現実を人に説明できるぐらい詳しいかっていうと、まだ難しいところがある。学んでいかなきゃいけないことが多すぎますが、みんなで取り組んでいけたらと思います。
13、読者へのメッセージをお願いします。
関さん)
FRaUでは、ダイバーシティ、ジェンダーなど様々な特集をしますが、やっぱり色々な意見が出てきます。ですが、そこでFRaUとして結論をまとめることはしないようにしています。FRaUが考えるきっかけになって、「行動を選び取ってもらう」みたいな風にしたかったから、「選択肢」を紹介しているんですね。政治のことでも、環境に優しい商品のことでも、その中で気に入ったものをピックアップして自分の選択に結びつけてもらえたらいいなと思います。
園田さん)
例えば、僕らは学生の頃に「勉強しなさい!」って言われたら、「今やろうと思ったのに!!」って、やる気がなくなったりしましたよね。僕らは何かを指導する立場じゃなくて「一緒に考えていこう」っていうスタンスを大事にしています。童話の「北風と太陽」でいうと、「太陽」のアプローチです。
新町さん)
「FRaUサステナ部」というのがあるんです。「FRaU SDGs会員」の読者の方々とSDGsの部活みたいなことをやってるんです。この間は、着なくなった洋服を持ってきてもらって、リサイクルの仕方とかサーキュラーエコノミーのことを学んだりとか。
◼︎昨年11月開催 FRaUサステナ部 体験型イベント
「捨て方がわからない」にさようなら!#FRaUサステナ部 「使わなくなった服・雑貨 の“すてない循環”を学ぼう」
誌面での「提案」はもちろん、こういうふうに読者の皆さまと一緒に、リアルに学べたり考えたりできる場所を作っていくことをこれからも続けていきたいと思っています。
衣料品・雑貨を回収し、リユース・リサイクルを行うプラットフォーム「R-LOOP」回収ボックス(FRaU編集部内)
14、お休みの日は、どのように過ごされていますか?
関さん)
2~3週間に1回は熱海にいって、温泉に入ったり魚を食べたりしています。
新町さん)
私は、家で宴会ですかね(笑)。子どもと過ごすとか、仕事から帰ってご飯を作って一緒に食べるとか、毎日それでリセットされてます。町内会のイベントで手伝いをしたりもしてます。
町内会のハロウィンイベントで仮装する新町さん(写真右)
園田さん)
ゴルフに行ったり、車をいじったり、釣りにいったりとか。気になることを勉強したりもします。やりたいことが多すぎて、休みの日でも何かしらやってますね。
聞き手 渡辺)
貴重なお話、本当にありがとうございました。帰って、改めてFRaUを読み返すのが楽しみです。今後のFRaUも楽しみにしています!
<FRaU編集長 兼 プロデューサー 関龍彦 せき・たつひこ>(画像中央)
『ViVi』『FRaU』編集者、『VOCE』編集長を経て、’18年より現職。’18年12月女性誌としては世界初の“一冊丸ごとSDGs特集”となるFRaU 1月号を刊行し、話題に。その後も20冊以上のSDGs関連特集号を創り続けている。消費者庁・サステナブルファッションサポーター、サステナブルコスメアワード審査員、FC今治高校特別講師なども務める。
<FRaUブランドマネジャー 園田徳一郎 そのだ・とくいちろう>(画像右)
91年講談社入社。『ViVi』、『HotDogPRESS』、『TOKYO1週間』などを経て、現在コミュニケーション事業第一部次長兼FRaUブランドマネージャー。FRaUの制作企画、ブランディング、広告業務推進、制作進行管理、渉外などを担当。「ブランドマネージャー」と書いて「なんでも屋さん」と読む。
<FRaUweb 編集長 新町真弓 しんまち・まゆみ>(画像左)
FRaUweb編集長。94年講談社入社、「FRIDAY」配属。00年より05年まで月2回刊行の「FRaU」に入り、育児休職後講談社文庫出版部へ。17年より「現代ビジネス」に在籍、19年3月編集長として「FRaUweb」リニューアル。書籍編集も務める。
*講談社FRaU:Media is Hope AWARD 2023 上半期媒体賞受賞。
インタビュー前編はこちら:
「気候危機のニュースは怖い」そう感じるあなたへ。女性誌「FRaU」が社会課題を発信する理由【YOU ARE THE HOPE #5 前編】メディア逆取材シリーズ