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「気候危機のニュースは怖い」そう感じるあなたへ。女性誌「FRaU」が社会課題を発信する理由【YOU ARE THE HOPE #5 前編】メディア逆取材シリーズ

「気候危機のニュースは怖い」そう感じるあなたへ。女性誌「FRaU」が社会課題を発信する理由【YOU ARE THE HOPE #5 前編】メディア逆取材シリーズ

嬉しいニュースや、学びの多い記事、番組に出会った時。

「どんな方がこの記事を書いてくれたんだろう?」
「どんな想いでこの出来事を伝えようとしているんだろう?」

そんな風に感じたことはありませんか?

メディアへの逆インタビュー企画「YOU ARE THE HOPE」では、気候変動やその他の社会課題に関しての報道を続けてくださるメディア/ジャーナリストの方へ、インタビューを行っていきます。私たち視聴者/読者へ希望を届けてくださる、その方ご自身がHOPE!という感謝をこめて立ち上げた企画です!

メディアを目指したきっかけ、報道にかける想いや、達成したい将来像は様々です。
「気候変動」という難しいテーマに立ち向かう、「メディア」内部を深掘りしていきます🔍

【YOU ARE THE HOPE #5 前編】講談社FRaU 編集部 関龍彦さん、園田徳一郎さん、新町真弓さんインタビュー

今回お話を伺ったのは、講談社「FRaU」編集部の関龍彦さん、園田徳一郎さん、新町真弓さん。

2018年12月、FRaUは「SDGs」(2030年までに達成すべき17の目標)を1冊丸ごと特集した「SDGs号」を刊行。これは、国内女性誌で初めてのことでした。

講談社のエントランスに飾られる FRaU SDGs MOOK 最新号「もっと話そう、気候危機のこと。」

「ライフスタイルマガジン」「女性誌」であるFRaUが、社会課題を特集する理由とは?
現在まで25冊のSDGs号(*2025年3月現在)を手がけてこられたFRaU編集部のお三方へ、SDGs発信に至った経緯、気候変動問題を「女性誌らしい」形で届けるための工夫を伺いました。

YOU ARE THE HOPE 史上初、対談形式、そして前後編に分けてお届けいたします🎙️

1、皆さんは日々、どのような業務をされているのでしょうか?

新町さん)
私はFRaUの公式ウェブサイト「FRaUweb」の編集長をしています。毎日記事を配信するために、記事の企画会議、執筆作業、原稿チェック、私自身が編集担当する記事の編集を、取材や打ち合わせ、書籍編集とは別のところでやっています。FRaU本誌の編集にはほとんどかかわっておらず、時折私自身が記事を作ったり、本誌記事をwebに転載したり。いずれにせよ、どちらにも総合的に関わっています。

園田さん)
新町はweb版の編集長で、関は本誌の編集長なんですね。本誌のSDGs特集号の編集長はもう1人いるんですが、関はSDGs特集号など「SDGsプロジェクト」のプロデューサーも兼ねています。SDGsはセンシティブなテーマなので、本誌の内容を編集長が最終チェックした後、関と僕でもう1度チェックしたり。僕は、企画の資料作成や予算の調整、クライアントとのやりとりなど、FRaU全体の管理をしています。「園田さんの仕事って、結局何ですか?」「何でもです」っていう会話がよくあります(笑)いずれにせよFRaUは小さな媒体なので、みんなそれぞれ役職を超えて、フルでやってます。

2、どうして編集者を志したのですか?

関さん)
僕はやっぱり、ものを作ることが好きだったからですかね。写真とかビジュアルが好きだった。あとは、編集者は早起きしなくてよくて、ネクタイしなくてもいいみたいな噂を聞いて(笑)実際はそんなことなかったんですけど。

新町さん)
私は小学校3年生ぐらいのときから編集者になりたかったんですよ。本に救われた経験があるので、人を救ったりとか、心を動かしたりとかするものを作れるってすごいなって。
最初は小説家になりたいなと思ったんですが、タイトルと表紙を決めても中身が一行も書けなくて。では漫画家はと思ったら、「キャンディキャンディ」のパクリのようなのしか描けなくて…(笑)。つまり才能がないことに気付くわけですよ。そんな時、中学生くらいのとき、何かの本あとがきに「編集者」という存在を知ったんです。これなら、自分に才能がなくても本を出せる! と。だから中学生以降の友達は、私が編集者を目指していることを皆知っていました。高校のとき、部活の友人が文集に「新町は将来夢を叶えて編集者になってるだろう」と書いていたりするくらいでした。

園田さん)
僕も本好きな子供でした。特にSFが好きで、文庫本を年に200冊ぐらい読んじゃうとか。文章が好きだったので、書き手になれるならなりたいとずっと思っていました。大学生になって就職活動をする中でも、やっぱり「伝える」ことをやりたかったんですね。それがストレートに叶うのがマスコミだったんです。講談社の面接日程が別の出版社と被っていたんですけど、「お弁当が出る」と聞いて講談社を選びました(笑)

新町さん)お弁当かい!

3、幼少期はどんなお子さんでしたか?

関さん)
転校が多くて小学校を3つ出てるんですが、回数を重ねるとどんどん転校が上手になるんですよね。転校生に求められていることがわかってくるから。「こういうことを言ったらウケるよな…」とか。「クラスの中で、こいつが影のリーダーだな」とかも、すぐわかるし。

新町さん)
処世術を学んだんですね(笑)

関さん)
そう。そういうところで人生の勉強をしたかもしれませんね。結構大変だから、転校生って。

園田さん)
僕も幼稚園2つ、小学校3つ、中学校2つ行ってるんですよ。僕は要領を身につけないまま、転校の先々で当たって砕けたっていう感じでした(笑)いじめられっ子になったり、いじめっ子になって先生に怒られたり。いろんな経験をして、ある種、多面性を持ったのかもしれません。

新町さん)
私はずっと東京で育ちました。本が好きで、でもいっぱい買うお金はないから図書館に通って。あと映画も大好きでした。うちの父親が20歳のときに耳が聞こえなくなっているので、子供の頃から英語の、字幕つきの映画を観ていたんですよね。邦画だと字幕がないから父はわからないので。小学校1年生のときに帝国劇場で観た「スターウォーズ」「バックトゥーザフューチャー」とか超はまりまくって。「ロードショー」「スクリーン」とか、映画雑誌も大好きでした。

4、FRaUのSDGs特集号は、関さんのご発案で生まれたと聞きました。SDGs発信に至った経緯をお聞かせいただけますか?

FRaU編集長 兼 プロデューサー 関龍彦さん

関さん)
FRaUは、ワンテーマのライフスタイルマガジンです。当時、編集長としては2回目のFRaUを作るにあたり、「社会的なテーマを特集してみたい」と思って「SDGs」に行きつきました。でも我々は、クライアントが、広告がつかないと成り立たない商売です。「それで広告が入るはずがない」「損するんじゃないか」と、提案した当時は反対の方が大きかったですね。

園田さん)
社内でも、誰もSDGsを知らなかったんですよね。アウェイからのスタートでした。

関さん)
SDGsの特集を始めた時に思い出したのが、2011年、FRaUが「ありがとう台湾」「これからも台湾」という特集号を出していたことです。当時は震災の影響で、海外旅行の記事なんて許されない空気でしたが、震災への義援金を何百億も集めてくれた台湾へ感謝を伝える特集をするのはいいのではないかと。「ありがとう、台湾!」を刊行したところ、台湾政府から「観光貢献賞」という賞をいただいたんです。FRaUの特集によって取材が増えたり、観光客が増えたりしたみたいなんですね。
その時に、「女性誌には女性誌のジャーナリズムがあるんだな」と思いました。「ありがとう」を伝えることだって1つのジャーナリズムになる。何かを批判したりせずに「空気を変える」というようなことが女性誌にはできるんじゃないかと感じたんです。SDGsの特集を始めた時も、その感覚が根底にあったと思います。

新町さん)
FRaUは昔から、女性が自分の人生、自分の意志で生きていくことはとにかく何でも支える。「おもろいこと何でもやる」みたいな雑誌でしたよ。「結婚する、しない」「アンチアンチエイジング」「妊活」なんてタイトルにもわかるように、世の中の「固定観念」にとらわれない雑誌を作って来ました。SDGs特集が始まる前から自分の人生を決めるためにいま直さなければならないこと、知らなければならないことを報じてきたので、SDGsの特集は自然な流れだったと思います。
私自身も関がこの特集を始める前から「現代ビジネス」というデジタルメディアで教育や貧困、ジェンダーなどの記事を作っていたので、仕事の方向性は特に変わっていないです。

園田さん)
僕も阪神淡路大震災があった時、大先輩に「君は編集者として、この大震災に何ができる?」と聞かれたことがあったんです。報道誌ならともかく、僕は当時はエンタメ系雑誌の編集をしていたので、その質問がすごくカルチャーショックでした。以来ずっと「社会に対して何ができるか」と自問自答してきたんですね。その中で、関がFRaUのSDGs号を始めたことが、自分が抱え続けてきた問いとやっと繋がった感じがありました。

5、SDGs号では「気候危機」「森」「海」「食」「平和」など、様々な特集をされています。特集のテーマは、どのように決まっていくのでしょうか?

関さん)
SDGs号に関しては、1月号と8月号の年2回は出すことにしています。そのときに一番ふさわしいテーマはなんだろう、っていう風に決めていますね。

園田さん)
決め方はいっぱいありますよね。編集部内で「このテーマでやりたい」って1冊作ることもあれば、パートナー企業さんからご提案いただくこともあるし。「お金を出してくださる方がいる」ということは、そのテーマを大切に思っている方がいる訳ですから。

関さん)
ただ自分たちの正義で「読者に読んでもらえればいい」というのは割と自分よがりな姿勢であり…そういう気持ちももちろん捨てないんだけど、そうやって声をかけてくださる企業さんの気持ちを汲み取って、編集部の意向と擦り合わせていくことも大切にしてます。

園田さん)
逆にお金はなかったけど、「関東大震災から100年だからやるべきだ」って、当時の新町部長が英断してやった…

関さん)「防災号」ありましたね。

◼︎2023年 8月発売 防災対策号「FRaU SDGs MOOK 防災 まいにちの、防災手帖。」
有村架純さんが登場! 完全保存版、まるごと一冊「防災」特集号を発売

◼︎2024年1月「令和6年能登半島地震」発生を受け、3か月間限定で無料配信した
「FRaU SDGs MOOK 防災 まいにちの、防災手帖。」各電子書店にて3か月間限定で無料配信決定。

新町さん)…確かに、上長に反対されましたね。

園田さん)
僕らはやろうかどうか決めかねていたんです。でも新町が「やっぱりやるべきだからやりましょう」って言ったのが、最後のとどめですよ。それを言ってくれたからできた。

新町さん)
震災から100年の9月1日が防災の日だから、「絶対8月中に出してください」と関さんたちにはお願いしましたが……でも刊行してよかったですよね。

園田さん)
他の号にしても、色々な側面から、社会のトレンドをリサーチする中で生まれてきてるのは間違いないですね。

6、社会問題や気候変動を伝えるために、心がけていることはありますか?

関さん)
「女性誌らしさを失わない」っていうのが1番ですね。気候変動問題は特にビジュアルが難しいテーマなのですが、綺麗に作る、しっかりした文章を書くことがまずは大事だと思っています。あとは構成として、面白い、楽しい記事と、ちょっとシビアで、読み込んだり考えたりする必要がある記事のメリハリをつけています。1冊全体を楽しく読んでいただく工夫ですね。

新町さん)
見せ方でちょっとでも入りやすいことを心がけています。お勉強、ではなくて読み手の方が興味を持ってくださる記事にしないとなりません。関の話でいえば、ポンポンと足を休められる飛び石のように、少しほっとできる場所を設けるイメージですかね。

園田さん)
「気持ちが沈まない作り」っていうのがあるんですよね。

イラストを取り入れたり、ページごとに色を変えたり、気候変動の特集でありながら「爽やかな読後感」となるよう工夫を凝らした本誌

関さん)
「読後感」っていう言葉があるんだけど。「気候危機」をテーマにした1冊を最後まで読んでもらった時に、どういうふうに感じてほしいか?っていうところを考えるので、構成は大事。

新町さん)
2025年1月号の菅田将暉さんへの取材記事では、『サンセット・サンライズ』という映画が南三陸の海を舞台にしたものだったので、気候変動に触れる1文は自然に入ってきました。海に入る撮影で「温かくて驚いた」「カラフルな魚がいっぱいいた」、「漁師さんが『今まではこんなにいなかったんだよ』と仰っていた」とおっしゃっていて。 そういう文があるだけで、違うじゃないですか。

◼︎気候変動問題について触れた、俳優 菅田将暉さんへのインタビュー記事
「地球が終わるかと思った」菅田将暉が南三陸の漁師たちから聞いたこと
「祖父が喜んでくれて」菅田将暉が語る”俳優をしていてよかった”と思うこと

◼︎2024年12月発売 「もっと話そう、気候危機のこと。」
菅田将暉さんが表紙!「日本の気候がおかしくなってきている」を考えるFRaU1月号発売

ただ、気候変動もとても大事な話だけど、気候変動「だけ」ではなくて様々な問題は繋がってきますよね。貧困問題とか、ゴミのこととか。だから「気候変動特集専門の媒体」と思わせないこともすごく大切にしてます。実際そうではありませんから。

7、これまでの気候変動特集の中で、読者からの反響が大きかった記事は?

関さん)
リアクション一番大きかったのこれだよね。

◼︎2022年発売 気候危機特集号「話そう、気候危機のこと。」
Snow Man阿部亮平さん初登場!「気候危機」特集のSDGs MOOK発売

新町さん)
「ありがとう」っていうコメントはSNSでも来ますけど、この時はリアルに、感謝のハガキがわーってきたんですよ(笑)。「FRaU」のロゴのイラストを描いてくれたりとか、素晴らしかったです。

関さん)
表紙を務めてくれた阿部亮平さんのファンの方からが多かったんですけど。当時は世間的にもあまり知られていなかったのですが、阿部さんが「気象予報士」の資格を持っていることを、気候変動の特集で打ち出したことが素晴らしいと。だいぶお褒めの言葉をいただきましたね。

新町さん)
webでもそうですが、やっぱり気候変動の記事が「読まれる」のは、そう簡単にはいかないです。例えばさっきの話みたいに、好きなタレントさんが出ているから買ってくださった方が気候変動を学ぶきっかけになるとか、そういうのが雑誌の力だと思うんですよね。気候変動を学ぼう!と思ってFRaUを手に取ってくださるのはもちろん歓迎なんだけど、そうじゃなくてもいいと思いますよね。

園田さん)
「SDGs号を読んで転職した」っていう人もいるんですよ。最近も、SDGs号を持って就職の面接に来てくれる人がいると聞きました。数多い事例ではないものの、 そういう話を聞くたびに、私たちも勇気をもらうことができるんですよね。そういう人たちがいるというのが、FRaUの特徴のひとつでもあります。


<FRaU編集長 兼 プロデューサー 関龍彦 せき・たつひこ>(画像中央)
『ViVi』『FRaU』編集者、『VOCE』編集長を経て、’18年より現職。’18年12月女性誌としては世界初の“一冊丸ごとSDGs特集”となるFRaU 1月号を刊行し、話題に。その後も20冊以上のSDGs関連特集号を創り続けている。消費者庁・サステナブルファッションサポーター、サステナブルコスメアワード審査員、FC今治高校特別講師なども務める。

<FRaUブランドマネジャー 園田徳一郎 そのだ・とくいちろう>(画像右)
91年講談社入社。『ViVi』、『HotDogPRESS』、『TOKYO1週間』などを経て、現在コミュニケーション事業第一部次長兼FRaUブランドマネージャー。FRaUの制作企画、ブランディング、広告業務推進、制作進行管理、渉外などを担当。「ブランドマネージャー」と書いて「なんでも屋さん」と読む。

<FRaUweb 編集長 新町真弓 しんまち・まゆみ>(画像左)
FRaUweb編集長。94年講談社入社、「FRIDAY」配属。00年より05年まで月2回刊行の「FRaU」に入り、育児休職後講談社文庫出版部へ。17年より「現代ビジネス」に在籍、19年3月編集長として「FRaUweb」リニューアル。書籍編集も務める。

*講談社FRaU:Media is Hope AWARD 2023 上半期媒体賞受賞。

インタビュー後編はこちら:

「気候危機を報道する必要がない世の中になればいい」 FRaU編集部の3人に聞いた、読者との「対話」の作りかた【YOU ARE THE HOPE #5 後編】メディア逆取材シリーズ