【YOU ARE THE HOPE ~海外メディア特別編~】ポーランドで気候変動報道の最前線に立つジャーナリスト メディア逆取材シリーズ

Media is Hope連続企画「YOU ARE THE HOPE」では、気候変動やその他の社会課題に関しての報道を続けてくださるメディア/ジャーナリストの方へ、インタビューを行っています。(#1 ハフポスト日本版、#2 日刊工業新聞、#3 ハースト婦人画報社、#4 テレビ朝日)
世界が直面する最も重要な課題の一つである気候変動。その解決に向けてメディアが果たすべき役割について、ポーランドで「地球のためのジャーナリスト」賞を受賞された経歴をお持ちの気候ジャーナリスト・パトリック・ストゥシャウコフスキさんにインタビューを行いました。彼の視点を通して、気候変動報道の現状や課題、そしてメディアの未来について伺いました。
1、普段のお仕事内容を教えてください。
ポーランドのオンラインニュースメディア「Gazeta.pl」で10年近く活動しており、主に気候や環境に関する記事を執筆しています。中でも、気候科学や政策、環境保護など幅広いテーマを扱っています。また、同僚が気候変動の背景を正しく理解し記事に反映できるよう、ウェビナーを開催してサポートしています。特に、熱波や暴風雨などの異常気象のニュースで気候変動との関係を正確に伝えることを重視しています。
2、ジャーナリストになったきっかけは?
実は、物心つく前からジャーナリストになりたかったんです。この仕事の魅力は、常に新しいことを学び、様々な場所や人に出会える点です。また、気候やエネルギー市場、物理学や生物学など、幅広い知識を得る必要があり、常に成長できる仕事だと感じています。
3、ここ数年で、気候に関する報道にどのような変化が見られますか?
この5、6年で、気候問題がメディアでとても重要視されるようになりました。気候や環境に特化したコーナーや番組が増え、報道の意図も明確になってきています。2018年にポーランドでCOPサミットが開催された際に、気候に対する関心が高まりました。そこで世界中の気候専門家に会い、Fridays for Futureの抗議が始まった時期とも重なり、私たちメディアも気候問題をもっと取り上げるべきだと感じました。私は上司に提案して、毎週金曜日に気候変動に関する特集記事を掲載するシリーズを始めました。それが現在の「Zielona Gazeta」という気候・環境カテゴリーへと発展し、上司たちも非常に協力的でした。
最近では気候変動に懐疑的な意見は少なくなりましたが、偽情報や政治の影響といった課題はまだ残っています。特に、右派政党が気候対策の中止を訴える中、多くの場合、メディアは政治家の発言を引用するだけで、それが真実かどうかは書きません。例えば、「科学者の意見は一致していない」という発言には、「97%の科学者が気候変動を認めている」といった正しい情報を補足するべきです。ジャーナリストには、こうした点での改善が求められています。
4、特に反響があった記事はありますか?
風力発電所に関する記事が特に反響が大きかったです。国会で風力発電所について議論があった際、ポーランド最大の風力発電所がある村に取材に行き、そこに住む人々や村長と話しました。彼らが風力発電所から受ける影響や恩恵についてリアルな声を聞き、それを記事にしたところ、多くの読者から肯定的なフィードバックをもらいました。やはり、現場での実体験を描写した記事が最も読者の関心を引きます。
5、気候変動を報道する上で直面する課題は?
一つ目は専門用語の問題です。例えば「温室効果ガス排出量」など、日常ではあまり使わない難しい言葉が多く、一般の人には分かりにくいことがあります。そのため、私は短い動画を作って報告書の大事なポイントを伝えていますが、専門的な言葉ではなく、友達に話すような分かりやすい説明を心がけています。もう一つは、ポーランドの多くのメディアが利益の減少に悩んでいることです。グーグルやフェイスブックとの厳しい競争があり、収益を得るのが難しい状況になっていて、これはメディアにとって大きな課題です。
◼︎パトリックさんinstagram:https://www.instagram.com/reel/DCmonfBMcqR
6、気候変動解決におけるメディアの役割をどう考えますか?
メディアは、気候変動の解決にとても大切な役割を担っています。民主主義では、政治家の行動は人々の関心や声に影響されるため、気候やエネルギー政策について正確に報道することが重要です。また、政治家の発言や約束を追い、その責任を明らかにすることもメディアの大事な仕事です。SNSが広く使われるようになった今でも、メディアは専門知識や調査力を活かし、深い取材や大きなテーマの報道を続けることで、欠かせない存在であり続けています。
7、日本のジャーナリストへのメッセージ
アメリカのジャーナリスト、*マーク・ハーツガード氏は「将来、すべてのジャーナリストは気候ジャーナリストになる」と述べています。気候はエネルギーや科学だけでなく、経済、安全保障、ファッションなどあらゆる分野に影響を与えるからです。気候を念頭に置き報道することは、全ての人の生活や選択に関わる問題であり、ジャーナリズム全般の質にも関わっています。
*マーク・ハーツガード氏:
世界50カ国500以上のメディアが参加する、気候変動連携ネットワーク「Covering Climate Now(CCNow)」の共同設立者。気候変動解決に貢献するメディアを讃える Media is Hope AWARD 「殿堂入り」受賞。
◼︎Media is Hope AWARD 「殿堂入り」CCNow マーク・ハーツガード氏など国内外のジャーナリスト4名が受賞
プロフィール
パトリック・ストゥシャウコフスキさん。2015年よりGazeta.plのジャーナリスト。グリーン デスクおよびZielona.Gazeta.plウェブサイトの責任者。専門は気候・環境と海外トピック。連載「気候のための金曜日」シリーズ、中東や世界各地からのリポートなどを執筆。番組Poranna rozmowa Gazeta.pl(旧Zielony Poranek)のホスト。ポズナンのアダム・ミツキェヴィチ大学とポーランド・ルポルタージュ学校でジャーナリズムを卒業。オックスフォード気候ジャーナリズム・ネットワーク会員。2023年、Radio ZETのAndrzej Woyciechowski賞の一環として授与される「Journalist for the Planet」賞を受賞。