【開催報告】気候テック・スタートアップは希望の語り手になりうるのか?〜Media is Hope メディア向け勉強会〜
2024年8月7日に開催されたメディア関係者の方を中心に開催された勉強会、『世界が注目する気候テック(Climate Tech)』には200人近い事前申し込みをいただき、盛況のうちに開催されました。シティラボ東京(City Lab TOKYO)で開催され、現地参加のメディア関係者の方々は約30名、メディア関係者以外も含むオンライン参加者は約100名近くの方にご参加いただきました。本レポートではイベントの様子・概要を写真を交えてご報告いたします。
イベントは、気候テックに関する基調講演から始まり、メディア実践者からの報告、そしてパネルディスカッションという構成で行われました。
東京大学 FoundX 馬田隆明氏
基調講演:気候テックの現状と可能性
東京大学 FoundX ディレクターの馬田隆明氏からは、気候テックの現状と可能性について、大きな潮流から気候テックを気候変動対策に対する解決策として、また事業機会と捉えることの重要性について冒頭20分に渡って講演を頂きました。その上で、気候変動問題を伝え、対話を生み出す際にメディアの役割の重要性、意義があることについても指摘がありました。 「気候変動対策は生活の質を脅かす」と認識している人が国内に多いことも踏まえ、気候変動がもたらす脅威、そして対策のための「我慢」「負担」が想起されがちである現状も紹介されました。そんな中、気候テックがより未来志向の機会、解決策としてメディアにおいて語られることによって、「希望の語り手」になりうるのではないか、との力強いメッセージも届けられました。
▶今回のご登壇にちなんだブログ記事も執筆されてます。詳しくは是非こちらも参照ください。
『希望の語り手』としての Climate Tech スタートアップ[2024/7/7]
https://blog.takaumada.com/entry/climate-tech-as-a-hope
▶気候テックの動向、投資家起業家などへのインタビューなどもFoundXのYouTubeのチャンネルで継続的に発信されています。
https://www.youtube.com/channel/UCM1brf5obS3ej448DVAMU3A
メディア実践者からの報告
続いて、気候テックを取り上げているメディア関係者3名から、それぞれの取り組みや課題についての報告がありました。
NewsPicks 岡ゆづは氏
岡氏は、自身が手がけるポッドキャスト「経済番組グリーンビジネス」について紹介しました。同番組では「グリーンはカネになる」という視点を重視し、気候テックをポジティブなビジネスチャンスとして伝える工夫を行っているそうです。
岡氏は番組の運営に関する具体的な話題にも触れ、視聴者の属性、運営体制、人気のあるトピック、苦労している点、収益性などについて詳しく説明しました。さらに、音声メディアとしてのポッドキャストの魅力や可能性についても語り、ポッドキャストに興味を持つ人や番組内容に関心がある人にとって、実践的なヒントとなる多くのエピソードを共有しました。
「聴取者の多くが大企業に勤める方々で、スタートアップの話題に高い関心を持っていることがわかりました」と岡氏は述べています。また、音質の重要性や事前の打ち合わせの必要性、ポッドキャスト制作のノウハウなど、参考になる情報も多く提供されました。
経済番組 グリーンビジネス [NewsPicks] – Spotify やApple Podcasからも視聴可能です。
https://newspicks.com/movie-series/133/
朝日新聞 香取啓介氏
香取氏は、一般紙における気候テック報道の現状と課題について報告しました。自身がパリ協定締結の瞬間をCOP会場で取材した経験や、米国駐在時に目にした民間企業やスタートアップが牽引するテクノロジーイノベーションによる社会課題解決の取り組みから、気候テックの可能性や魅力に個人的な関心を持つようになったと語りました。
一方で、新しい潮流である気候テックを全国総合紙の記事として取り上げる際の課題についても、様々な側面から言及がありました。
「新しい技術や企業を取り上げる際、その信頼性や影響力をどう判断するかの目利き力も課題です」と香取氏は指摘しました。また、気候テックを単なる環境問題としてではなく、産業構造の変革として捉える視点の重要性も強調されました。
▶朝日新聞に掲載された気候テック関連の記事
「産業革命以来、最大の変革」 国内外で気候テックが注目される理由 [2023/9/4 朝日新聞🔏]
世界が注目する気候テック、巨額の支援合戦 日本に新たな市場は [2023/9/4 朝日新聞🔏]
気候テックの目利き、「北欧のニンジャ」に聞く 欧州流のしたたかさ [2023/9/4 朝日新聞🔏]
Business Insider Japan副編集長 三ツ村 崇志氏
三ツ村氏は、科学技術の専門性を持つジャーナリストとして、オンラインビジネスメディアのBusiness Insider Japanでの執筆・編集経験を紹介しました。脱炭素、気候変動、ESG、サステナビリティ、ディープテックなど、幅広いテーマについての記事や切り口を取り上げてきたとのことです。
過去に掲載された記事のテーマは多岐にわたり、水素のサプライチェーン、気象データを活用した発電量予測システム、製造プロセスの脱炭素化、持続可能な航空燃料、ペロブスカイト太陽光発電、DAC/CCS、核融合、炭素会計など、専門性の高い技術分野を幅広くカバーしていたことが紹介されました。
「技術だけでなく、それが社会にどう実装されるかという視点も重要です」と三ツ村氏は述べ、アカデミアと産業界の橋渡し役としてのメディアの可能性を示唆しました。
▶BUSINESS INSIDER JAPANで三ツ村氏が執筆された記事一覧
https://www.businessinsider.jp/author/takashi-mitsumura/
パネルディスカッション:気候テック報道の未来
基調講演と事例紹介に続き、登壇者全員によるパネルディスカッション及び会場からの質疑応答が行われました。気候テック報道の課題と可能性について活発な議論が交わされ、以下のような質問が投げかけられました:
●日本の強みを活かせる気候テックの領域は?
●最近の取材で印象に残った、興味をそそられたものは?
●社内や編集部内で気候テックを取り上げる際の工夫は?
●国内の気候テック・スタートアップがスケールアップを目指す際、より多くの資金調達を行うための解決策は?
●よく読まれた、聴かれた記事・エピソードの傾向は?
最後に、Media is Hope共同代表の西田氏から「今後気候テックを報道することを検討しているメディア関係者へのメッセージは?」との質問がありました。
香取氏は、「世界的な課題の解決に挑戦している気候テックスタートアップの起業家には、使命感を持った元気をもらえるような面白い方が数多くいます。ぜひ取材してみてください。」と述べました。また、10代の若者が設立したNPO「オーシャン・クリーンアップ」の例を挙げ、若者世代に大きなインパクトをもたらす可能性を伝えたいと語りました。気候テックスタートアップに対しては、「商品やサービスの青写真を見せていただけると取り上げやすいのでは」とアドバイスがありました。
三ツ村氏は、気候テックの起業家や研究者の取材の難しさに触れつつ、「情熱を持って目を輝かせながら話をしてくれる人も多い」と指摘。パーソナルな部分に触れることで魅力的なストーリーを伝えられる可能性を示唆しました。一方で、「当初期待された技術がうまくいかないこともある」と述べ、正負両面を考慮しながら責任ある科学技術イノベーション報道の重要性を強調しました。
岡氏は、「企業の成功だけでなく、失敗の経験も価値ある情報」だと指摘。「なぜうまくいかなかったのか、どうすればよかったのか」など、多角的な視点からメディアが追跡報道することの重要性を訴えました。
馬田氏は、気候変動問題の政治的側面に触れつつ、「対話を促し生み出していく観点で、メディアの意義は非常に大きい」と述べました。ニュースや記事の共有が話題や仲間を生み出す可能性を指摘し、「メディアは単に情報を伝えるだけでなく、人々を変える機能も持っている」と強調しました。さらに、気候変動問題や気候テックをトピックとした新しいコミュニケーション方法や対話の場の重要性にも言及しました。
まとめと今後の展望
イベントの締めくくりとして、モデレーターを務めたMedia is Hopeの西田氏が総括を行いました。
西田氏は、「気候テック・スタートアップは、単なるビジネスの枠を超えて、社会変革の担い手として大きな可能性を秘めています。メディアには、その可能性を広く伝え、社会の理解と支援を促す重要な役割があります」と述べました。また、「今回のような議論の場を継続的に設けることで、気候テックに関する理解を深め、より効果的な報道が生まれるよう、盛り上げていきたい」という今後への抱負も語られました。
イベント後のネットワーキングセッションでは、参加者同士の活発な交流が見られ、気候テックへの関心の高さが改めて感じられました。
結びに
本イベントを通じて、気候テックが単なる環境技術ではなく、社会全体を変革する可能性を秘めた重要な分野であることが改めて認識されました。同時に、その可能性を社会に伝えるメディアの役割の重要性も浮き彫りとなりました。
気候テック・スタートアップは、確かに「希望の語り手」となる可能性を秘めています。しかし、その希望を現実のものとするためには、技術開発だけでなく、社会の理解と支援が不可欠です。そのための橋渡し役として、メディアの果たす役割は今後ますます重要になっていくことと思います。今回のイベントが、気候テックに関する理解を深め、より効果的な報道につながる一助となることを願っています。
<文:市川裕康(共催:株式会社ソーシャルカンパニー /「クライメートキュレーション」>
世界が注目する気候テック(Climate Tech) 〜日本のメディアはどう報じるべきかメディア関係者&専門家と探ります〜【メディア向け勉強会】
■ 日時:2024年8月7日(水) 14:00-15:30 [終了後、対面のみ交流可能]
■ 場所:ハイブリッド開催@City Lab TOKYO
〒104-0031 東京都中央区京橋3丁目1−1 東京スクエアガーデン6階 シティラボ東京
■ 主催:一般社団法人Media is Hope
■ 共催:株式会社ソーシャルカンパニー、日本環境ジャーナリストの会
■ 登壇者:
馬田 隆明氏 東京大学 FoundX ディレクター
日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』『解像度を上げる』。
岡 ゆづは氏 NewsPicks 編集部 記者 / ポッドキャスト「経済番組 グリーンビジネス」
経済メディアNewsPicksのジャーナリスト。東京大学教養学部を卒業後、NewsPicksに入社。現在は気候変動分野を担当し、ポッドキャスト「経済番組グリーンビジネス」などを配信中。
香取 啓介氏 朝日新聞 編集局科学みらい部次長
2002年、朝日新聞社入社。長野、さいたま総局、国際報道部などを経て22年から現職。14年からCOP21でパリ協定採択にいたる国際交渉を現地で取材し、以降、気候変動問題をウォッチしている。17年から3年半、ワシントンで特派員を務め、トランプ政権下のアメリカを取材。専門・関心は、気候変動・環境、テクノロジー、科学政策、国際関係
三ツ村 崇志氏 Business Insider Japan 副編集長
科学技術ジャーナリスト。科学の社会実装への興味から学生時代より科学コミュニケーションに携わる。科学雑誌Newton編集部を経て、2019年よりBusiness Insider Japanへ加入。ビジネスの現場での科学の使われ方について取材する中で、DeepTech企業の取材を多数経験。
■ 司会進行:市川 裕康 株式会社ソーシャルカンパニー/ メディアコンサルタント
デジタルメディアと気候変動・脱炭素・気候テック等をテーマに2022年から無料ニュースレター、「Climate Curation」を日英で毎週配信。リサーチやコンサルティングの活動を通じて海外と国内における情報のギャップを埋めることなどに注力。NGO団体、出版社、人材関連企業等を経て2010年に独立・設立。国内外のデジタルメディアの動向を踏まえ、大企業、政府機関、メディア企業、NPO団体等にコンサルティングサービスを提供。HP:https://climatecuration.theletter.jp
■ 共催:日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)
JFEJは新聞・テレビ・雑誌の記者のほかに、出版社編集者、フリーランスで活躍しているライターが在籍。各分野の専門家を招いて勉強会を開くなど環境問題をより深く学ぶとともにジャーナリスト同士の交流を目指しています。 HP:http://jfej.org
■ 主催: 一般社団法人Media is Hope
気候変動を解決できる社会を実現するために、気候変動報道強化に繋がるさまざまなサポートを行う非営利型一般社団法人。「メディアをつくる側もえらぶ側もお互いに責任を持ち、公平で公正かつ自由なメディアと持続可能な社会の構築」をビジョンに掲げ、気候変動の本質的な解決を目指して、メディアや市民、企業やあらゆるステークホルダーが共創関係を築く架け橋となる。また、媒体や系列を超えたメディア連携プラットフォームを立ち上げ・運営をしている。HP:http://media-is-hope.org