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【 YOU ARE THE HOPE #2】気候変動対策に誠実な企業が、評価される社会を目指して。〜人や地域と繋がり取材する楽しさ〜 メディア逆取材シリーズ

【 YOU ARE THE HOPE #2】気候変動対策に誠実な企業が、評価される社会を目指して。〜人や地域と繋がり取材する楽しさ〜  メディア逆取材シリーズ

嬉しいニュースや、学びの多い記事を読んだ時。

「どんな人がこの記事を書いてくれたんだろう?」

こう感じたことはありませんか?

Media is Hope新企画「YOU ARE THE HOPE」では、気候変動やその他の社会課題に関しての報道を続けてくださるメディア/ジャーナリストの方へ、インタビューを行っていきます。私たち視聴者/読者へ希望を届けてくださる、その方ご自身がHOPE!という感謝をこめて立ち上げた企画です!

メディアを目指したきっかけ、報道にかける思いや、達成したい将来像は様々です。
「気候変動」という難しいテーマに立ち向かう、「メディア」内部を深掘りしていきます🔍

【YOU ARE THE HOPE #2】日刊工業新聞、松木喬さんインタビュー

脱炭素・再生可能エネルギー・気候変動問題などについて、「日本各地の企業の取り組み」にフォーカスし、地域企業が背中を押されるような記事を多数書かれています。

2009年から15年以上、この分野を取材されてきた松木さん。人と人、企業と地域の繋がりを大切にし、楽しそうに取材先のお話をしてくださる姿が印象的でした。

 

1. 日々、どのような業務をされているのか教えてください。

日刊工業新聞のSDGsコーナーで週に1回、企業や技術の動向などについての記事を書いています。「ニュースイッチ」というサイトにも、主にSDGsコーナーに載せたものを転載しています。ニュースイッチに載せている記事は力を入れて書いているので、皆さんに読んでもらいたいです。
うちは一般紙と同じページ数(30ページ程)を、大手紙よりも少ない人数で制作しています。1人の記者がたくさん記事を書かないといけません。私はSDGsコーナー含め、一人で月30本くらいは記事を書いています。

 

2. 幼少期はどんな子供でしたか?

考えてみれば、テレビっ子でした。田舎の小学校に通っていたので、学校が終わればそのまま帰ってきて、夕方「水戸黄門」の再放送を祖父母と観たり、親父と一緒にプロ野球中継を観たり。最早懐かしのアニメとなった「タッチ」も好きでした。「週刊少年ジャンプ」も、隅から隅まで読んでいましたね。

オリンピックで言えば、ソウルオリンピックが盛り上がった時代でした。鈴木大地選手がバサロ泳法で背泳ぎで金メダルをとって、それで自分も背泳ぎをやってみたり(笑)。背泳ぎでは、地域の大会で優勝しました。

 

3. なぜ記者に?

大学時代、就職先を選ぶ段階になった時に、新聞記者の仕事が面白そうだなと思ったことです。社会学部にいたので「メディア」の授業もあり、ジャーナリストの方が先生として来られたこともあって、挑戦したくなりました。
大学を卒業してから別の専門紙に就職をしたのですが、その会社がすごく嫌で(笑)、1年目から転職を考えていました。そして、たまたま見つけた日刊工業新聞の募集に応募をし、面接を経て入社しました。

 

4. 15年ほど環境・エネルギー分野の取材を続けられてきた中で、印象に残っている出来事は?

2015年の9月25日、国連で「SDGs」 が採択された時に、紙面の裏一面を1ページ使って、カラーで SDGs を特集をしたことです。新聞なので、どこよりも早く「スクープ」を競う部分があるのですが、日刊工業新聞はSDGsについて、一番乗りで掲載することができたんです。
その後、2018年に国連が「SDG Media Compact(メディア・コンパクト)」を発足し、創設メンバー31社の中に日刊工業新聞も選ばれました。朝日新聞、日本テレビも選ばれていて、誰でも知ってるメディアの中にうちがいるという、この並びが嬉しくて。
国連、持続可能な開発目標に対する認知向上を目指す SDGメディア・コンパクトを発表

それがきっかけで SDGs の本を書いたら、今度は色々なところから SDGs に関する講演の依頼をいただき、 月2回くらいずつ、SDGs の話をして各地を回っていた頃もありました。
SDGsの特集記事を書いたことがターニングポイントとなり、色々なネットワークが増えたと思います。

5. 大企業、中小企業、自治体など色々な地域の企業、技術を取材をされていますが、情報収集はどのようにされていますか?

随時情報が入ってきますが、困っている時は「こんなテーマで取材先を探している」と親しい人に聞いたりと、結構アナログな方法で探しています。
自分も取材先を紹介することがありますが、そうすると「倍で返ってくる」と感じています。1回取材した企業が別の取材先を紹介してくれたり、記事を書くと繋がりが広がるので、取材先を紹介することも、紹介してもらうことも大事にしています。

また、一般紙がすでに取り上げたことを取材しても、既読感があるので読んでもらえないこともあります。掲載の一番手になれるように、なるべく先回りをして取材するようにしています。

 

6. 気候変動報道で意識していること、難しいと感じていることは?

「出羽守(ではのかみ)」にならないこと。
「ではのかみ」は、「海外ではやっている」「欧州ではやっている」と繰り返し、日本は遅れているとけなす人を揶揄する言葉です。サステナビリティの世界では「欧州がやってるから日本もやらないといけない」と語る人がいますが、それは「やるべき」理由でしょうか。例えば SDGs の取り組みに関しても、「国連で決まっているから」という理由づけはしないように、企業が取り組むべき理由を、企業の方に伝わるようにしようと考えて記事を書いています。

あとは、記者である自分しか取材できないことを聞いて、それを誰にでもわかる文章で書くことを意識しています。
井上ひさしさんという作家の方が書いた「作文教室」という本があります。自分にとってのバイブルのような本なのですが、その中では「自分しか書けないことを誰にでもわかる文章で書く」、これが心がけることだと書いてあるんです。どの報道にしても、このことを大前提としています。

新聞はスペースに限りがあるので、難しい言葉も入れたいけれど、あえて入れないということもあります。新しい言葉が出てくると、その言葉の説明が必要です。そうすると本当に伝えたい情報を減らさないといけなくなります。
なるべく情報量をたくさん入れるけれど、読みにくくしない。その格闘ですかね…。

7. 今まで報道を続けてきて嬉しかったことは?

手応えがなかなか感じられない中で、取材に協力してくださった方に喜んでもらえることが、まずは1番嬉しいです。これはハフポストの中田さんも仰っていましたね。それを読者の方が読んでくださって感想を寄せてくれたり、たまに予期しないところで、自分の書いた記事を資料として使ってもらったりするとまたすごく嬉しい、ということもあります。

やりがいとしては、取材でコメントをを引き出せた時が嬉しいです。
ひとつは、元環境大臣の小泉進次郎さんにインタビューした時。大臣退任後のことを質問したときに、「どういう立場であっても、自分は一生再エネ応援団だ」と小泉さんが仰ったんです。大臣を辞めた後も環境のことをやる、ということを引き出せたのが嬉しかったです。
◆【単独インタビュー】小泉大臣に直撃、日本が環境先進国に返り咲くには?

もうひとつは、前衆議院議長の大島理森さんへのインタビューです。当時「故郷の環境を守ることが豊かさだという認識を日本全体で持つことが大事だ」と話していただいたのが、すごく印象に残っています。
◆前衆議院議長・大島理森氏が力説、脱炭素がもたらす利益

自分の故郷は新潟ですが、確かに自分の住んでる場所の環境を良くしようと思えば、その地域も良くなる、そういう地域があちこちにできれば日本全体もよくなる。「故郷の環境を守ることが豊かさだ」まさにそうだなと思っています。

 

8. 取材をされていて、楽しい時はどんな時ですか?

生物多様性の取材は、人に会うのも楽しいですし、緑が増えていく結果も見えやすいので、そういう変化を見るのも楽しいです。
企業の現場などでは、生き物についてすごく熱心に語ってくださる方がいらっしゃいます。
この人、会社の中で大丈夫なのかなと思うこともあるのですが(笑)やはり皆さんが楽しそうなので、こうして伝えたくもなります。

 

9. 今後どんな気候変動報道をしていきたいですか?個人的な展望はありますか?

今後については、中小企業の脱炭素の取り組みについての取材は続けていきたいなと思っています。いつか本になったらいいなと。中小企業に行くと、脱炭素に取り組む理由が会社ごとに違うのが面白いんです。「ただいいことをやりたいからやっているんだ」とか、「飲み屋で自慢できるから」という社長もいて、それぞれ面白くて。
一方で、原発事故を身近に感じたり、気候変動に対して何かをしたいと思ったり…自分1人が取り組んだからといって全てが解決するわけではないのはわかっているけれど、それでも何とかしたい、と取り組まれている方々もいらっしゃるんです。

地域に根ざした企業は、簡単に場所を変えられない。異常気象だからといって従業員をおいて移転できない。だからやっぱり、切実な想いがあるんだと思うし…そういう声を拾っていって、真面目に取り組んでいる中小企業が適切に評価される、そういう社会になればいいなと思ってます。

 

10. 休みの日の過ごし方

子供が独立をして自由な時間が増えたので、サッカーを観に行ったり、好きなことをやろうとしています。昔は子供と一緒にスポーツ観戦をしていましたが、最近は1人で行かざるを得ないので、1人で行って、一生懸命友達を探します(笑)一緒に観に行ってくれる友達を募集中です。

あとは、サッカー応援のオフ会に参加したり。そしたらまたそこで、面白い内科の先生がいらっしゃって友達になって…全然気候変動には関係がないけれど、取材に行ったりしています。

(松木喬さん提供)

<松木喬>
新潟生まれ、アルビレックスの鈴木孝司選手を応援。入社は02年。大阪で勤務、四天王寺・夕陽丘に住む。07年から東京。CSR・環境を取材。書籍「自然再生をビジネスに活かす ネイチャーポジティブ」「SDGs経営 社会課題解決が企業を成長させる」。環境ジャーナリストの会理事、日本環境協会理事。eco検定、環境プランナーベーシック合格。「Media is Hope AWARD2023」年間個人賞受賞。